スポンサーサイト

--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【小説】2010年度ベスト

2010年12月30日 01:46


 こんにちは、mayaです。
 今年も残すところ、あと一日となりました。そんなわけで、前回に引き続き、2010年に聞いて、観て、あるいは読んで良かったものについての簡単なメモとなります。今回は、一般の文芸・エンターテイメント小説に関して――


【2010年 文芸・エンターテイメント・ベスト】


◆文芸


 
音もなく少女は (文春文庫)音もなく少女は (文春文庫)
(2010/08/04)
ボストン テラン

商品詳細を見る


◇ボストン・テラン、『音もなく少女は』(文春文庫)

 ボストン・テランがこんなふうに確変するとはッ! というまさに驚きの一冊。
 10年ぐらい前に『神は銃弾』(文春文庫)で『このミス』の一位を取ったときには、書店員から「こんなエログロ、売れねーよ」と散々に叩かれたわけですが、それから紆余曲折を経て、本作のように重く、それでいて清々しく、何よりも乾坤一擲、力強い作品を書き上げてきたのだから本当に恐れ入ります。
 昔から、この作者はどうしようもない男たちと、そんな男に翻弄されながらも必死に生き抜こうとする女性を描くのが非常に上手かったわけですが、本作は、まさしくその本領発揮といっていいでしょう。どうしてもミステリとして紹介されがちな本作ですが、実のところ、女性たちの生き様を描いた2010年度最高の文芸作品だと思います。


 
おっぱいとトラクター (集英社文庫)おっぱいとトラクター (集英社文庫)
(2010/08/20)
マリーナ・レヴィツカ

商品詳細を見る


◇マリーナ・レヴェッカ、『おっぱいとトラクター』(集英社文庫)

 ボストン・テランの作品の後に、おっぱいはないだろうと思われるかもしれないけどw、84歳のおじいちゃんが48歳も年下のウクライナ人の女性を後妻に迎えたことで生じるドタバタコメディを主軸にしつつも、東欧で翻弄され続けたウクライナの歴史を重厚に切り取ってみせたこの作者の手腕には、まさしく脱帽の一言。
 コメディパートは、イギリス映画の『ウェイクアップ・ネッド!』を思い出させるようなてんやわんやなユーモアが満載で、その一方で、ウクライナ人女性の凄惨なルーツにはつい愕然とさせられてしまう――移民、紛争とアイデンティティ、そして恋愛と家族にまつわる本年度最高の物語。


◆SF


 
ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
(2010/09/22)
テッド・チャン、クリストファー・プリースト 他

商品詳細を見る


◇大森望編、『ここがウィトネカなら、きみはジュディ』(ハヤカワ文庫SF)

 SFマガジン創刊50周年記念アンソロジーの第二段として、「時間SF」をテーマに大森望さんが編集したアンソロジー。収録作家は、テッド・チャン、クリストファー・プリ-スト、エフィンジャー、シルヴァーバーグやスタージョンなど。
 とにもかくにも、収録作品のクオリティがとても高くて、一つの外れもなし。「時間ロマンス」、「奇想」と「時間ループ」をテーマにした三部構成となっていて、個人的に最も気に入ったのは、イアン・ワトスンの『彼らの生涯の最愛の時』――語り口がとてもユーモラスで、タイムトラベルものらしい読後感の爽やかさもあって、そんな一口で二度美味しいストーリーに盛大な拍手です。
 ちなみに、他にも、「宇宙開発」をテーマとした中村融さんのアンソロジー、あるいは「ポストヒューマン」をテーマにした山岸真さんのものもすでに発売されていて、それぞれ、本作に負けず劣らずのクオリティです。


 
ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)
(2010/06/30)
ジョージ・R・R・マーティン、ガードナー・ドゾワ 他

商品詳細を見る


◇ジョージ・R・R・マーティン、ガードナー・ドゾワ&ダニエル・エイブラハム、『ハンターズ・ラン』(ハヤカワ文庫SF)

 最近、ツイッターのTLで共作の話をちらほらと見かけるのですが、本作は1977年にガードナーがアイデアを起こし、マーティンと共同で作品を膨らませたものの、82年以降、20年間もガードナーの書斎に眠ることとなり、その後、困ったガードナーが若手のエイブラハムにぽいと放り投げ、若さゆえの過ちなのか、大幅に作品を削除して書き足しまくったエイブラハムをマーティンがなだめすかし、こうして、ついに再びガードナーのもとへと戻って日の目を見ることとなった作品――
 ジョージ・R・R・マーティンの名前がタイトルの下にドンッと載っているために、マーティンの作品なのかなと思いがちですが、文章の割合としてはエイブラハムの方が多いようで、実のところ、マーティンほどの凄みといったものはありません。とはいえ、ダメ男によるダメ男のためのダメ男ブルーズ全開の冒険SFとなっていて、「よう、ダチ公、たとえダメ男だってこんなにカッコいい生き様を見せられるんだぜ!」といったふうな2010年度の『SFが読みたい』でも一位が有力視されている、見事なおっさんほいほいSFです(すげえほめてます)。


 
去年はいい年になるだろう去年はいい年になるだろう
(2010/04/02)
山本 弘

商品詳細を見る


◇山本弘、『去年はいい年になるだろう』(PHP研究所)

 出版元で敬遠する人もいるかもしれないけど、2010年度のタイムトラベルものの傑作です。PHPだからといって、食わず嫌いだと損をします。でも、もうちょっとマシなところから出してほしかった……
 とはいっても、今回は、山本弘さん特有のハードSFとはちょっとばかし事情が異なり、ご本人が「私小説」だと紹介しているとおり、主人公は45歳の家庭をもったSF作家。そして、未来からガーディアンと名乗るオーバーテクノロジーを持ったアンドロイドがやってきて、「人を不幸から守る」という名目で、どんどんと歴史を改変していくことになります。それに対して、主人公はもうてんやわんや。
 ここ最近の山本弘さんの評価を決定づけてきた、『アイの物語』(角川文庫)、『MM9』(創元SF文庫)などと比べると、少しばかり物足りなさもありますが、さらりと読めて、SFテイストにも溢れ、ラストにグッとくること受け合いな良質な作品だと思います。


 
英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)
(2010/06/10)
ジョー・ウォルトン

商品詳細を見る
 
暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)
(2010/07/27)
ジョー・ウォルトン

商品詳細を見る
 
バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)
(2010/08/28)
ジョー・ウォルトン

商品詳細を見る


◇ジョー・ウォルトン、《ファージング》シリーズ(創元推理文庫)

 ミステリ、サスペンスやSFといったジャンルをクロスオーバーした改変歴史小説。そういう意味では、昨年のマイケル・シェイボンの『ユダヤ警官同盟』(新潮文庫)に近いかもしれませんが、シェイボンの作品のような重苦しさや、ユダヤの歴史を知らないと読み難いといったようなハードルは全くありません。
 本作は三部作で、それぞれ、ちょっとばかし色合いが違います。たとえば、一作目の『英雄たちの朝』は古典的なミステリ、二作目の『暗殺のハムレット』はスパイもの風味のサスペンス、三作目の『バッキンガムの光芒』はさながらジェットコースタームービーといったふうで、いずれにしても良質なエンターテイメントに仕上がっています。
 2010年度の『SFが読みたい』における『ハンターズ・ラン』の対抗であり、むしろ本命といってもいいでしょう。三作もありますが、上記のとおり、それぞれで風味が違うので、時間をかけて楽しむのも吉です。


◆ミステリ(サスペンス)


 
ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/04/30)
ジョン・ハート

商品詳細を見る
 
ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/04/30)
ジョン・ハート

商品詳細を見る


◇ジョン・ハート、『ラスト・チャイルド 上・下』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
※ハヤカワ・ポケット・ミステリからも同時出版

 この作者はデビュー作の『キングの死』(ハヤカワ・ミステリ文庫)から一貫して、同じテーマをずっと書き続けています――それは父親との対峙、そして家族愛。寡作ながらも、すでに若手ハードボイルド作家の第一人者としての名声をほしいままにしていて、テーマは重く、その筆致も深い余韻を残します。
 本作でも、その力量はいかんなく発揮されていて、妹の失踪事件を機にバラバラとなってしまった家族のもと、13歳の少年ジョニーは身の危険をかえりみず、怪しい近隣の人々を監視し続けます。誰も信じられないという孤独。温かかった家族がまた戻ってくるのではないかという希望。そして、年相応の苦悩、葛藤、空しさやもどかしさ。そんなたった13歳の少年の人生という名の物語。
 早川書房創立65年、ハヤカワ文庫40周年を記念した作品であり、MWA(アメリカ探偵クラブ)賞長編賞、CWA(英国推理作家協会)賞をダブル受賞している作品です。つまり、これを読まなきゃ、2010年度は年を越せないといったところです。多くは語りません。ぜひ、どうぞ。


 
フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)
(2010/09/25)
ドン・ウィンズロウ

商品詳細を見る
 
フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)フランキー・マシーンの冬 下 (角川文庫)
(2010/09/25)
ドン・ウィンズロウ

商品詳細を見る


◇ドン・ウィンズロウ、『フランキー・マシーンの冬 上・下』(角川文庫)

 タランティーノの『パルプ・フィクション』のように、面白いぐらいにどんどんと人が死んでいきます。本作は、そんなマフィアものの真骨頂であり、老いた殺し屋フランキー・マシーンのロード・ノベルでもあります。
 最初の50ページの安穏な生活を抜けたあたりから、一気にスピードアップ。本当の黒幕は誰なのか、そして裏切っているのは誰なのか、フランキー・マシーンは本当に窮地を脱することができるのか――そんなコンゲームのような心理合戦も楽しく、最良のページターナーとなることでしょう。
 惜しむらくは、日本人にとってはマフィアのファミリーネームなどが覚えづらく、最初のキャラクター紹介のページを何度も行ったりきたりする羽目になるといったところでしょうか。それでも、本年度ナンバーワンのサスペンスであることは揺らぎません。


 
失踪家族 (ヴィレッジブックス)失踪家族 (ヴィレッジブックス)
(2010/08/20)
リンウッド ・バークレイ

商品詳細を見る


◇リンウッド・バークレイ、『失踪家族』(ヴィレッジブックス)

 不思議なことに、今年は失踪モノの傑作が続きました。ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』も良いけど、こちらはむしろ、ミステリらしい謎解きとスリリングな展開で一気に読ませるエンターテイメントです。
 本作で特徴的なのは、失踪事件で取り残された少女シンシアを主役に置いたのではなく、その後にシンシアと結婚した夫が「わたし」という一人称で語るといったギミックでしょう。テレビ番組に出演したことで、シンシアの周囲に不可解な出来事が頻発するようになり、ついには殺人事件まで起こります。そして、「わたし」はシンシアさえも疑いはじめます。何が真実なのか。いったい、過去に何があったのか。
 中盤まで、全く展開の読めないストーリーは圧巻の一言。セバスチャン・フィツェックの『治療島』(柏書房)に近いといったところでしょうか。


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    最新記事


    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。