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【漫画】豊田徹也『ゴーグル』(講談社)

2012年10月25日 01:20

 
ゴーグル (KCデラックス)ゴーグル (KCデラックス)
(2012/10/23)
豊田 徹也

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『アンダーカレント』『珈琲時間』というロングセラーを生んだ豊田徹也はじめての短編集。単行本未収録だった表題作、ファン待望の『ゴーグル』ほか、月刊アフタヌーンにて発表された、感動あり、笑いあり、そのどちらでもない微妙なものありのバラエティー豊かな中短編が楽しめます!
公式HP(雑誌『アフタヌーン』)の作品紹介より
※試し読み可能ですが、Webブラウザ用のプラグインが必要。

「スライダー」 (雑誌『アフタヌーン 2008年1月号』)
「ミスター・ボージャングル」 (雑誌『アフタヌーン 2011年4月号』)
「ゴーグル」 (雑誌『アフタヌーン 2003年9月号』、四季大賞受賞作)
「古書月の屋買取行」 (雑誌『彷書月刊 2007年1月号』)
「海を見に行く」 (雑誌『アフタヌーン 2012年11月号』)
「とんかつ」 (雑誌『アフタヌーン 2012年10月号』)
以上、六作品を収録。
※「古書月の屋買取行」のみショートショート(二ページ)
※「海を見に行く」は「ゴーグル」の前日譚


「…彼はとても高く跳んだ。とても高く跳んだ……」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
(「ミスター・ボージャングル」pp88)
※"Jumped so high, jumped so high. Then he lightly touched down" ――「MR.BOJANGLES」

「おはよう。とかいってもう夕方だなあ。雨も上がったか……ん。お――――――っ。ちょっちょっと来てごらん。ほら」
「ん? 何やってんだあいつら」
「いや――きれいだなあ」
(ひろこがゴーグルを外す)
「本当にきれいだ」
(「ゴーグル」pp145-148)

「夏も終わりだな……なあひろこ!! こうやってしょっちゅうバイクに乗っているとな。季節が微妙に移っていくのが分かるんだよ!! 目で見ててもわからない季節の変化をな! 匂いとか空気の肌ざわりなんかで感じるんだ!! だから毎日毎日おんなじように見えてもな!! 本当は少しずつ少しずつ変わっていくんだよ!! …………変わっていくんだ」 
(「海を見に行く」pp178-179)



 作品との出会いは奇跡のようなものです。当然のことではありますが、売れているからといって、それが優れた作品だとは限りません。たくさんの読者がいるからといって、その作品が好きになれるといった道理もありません。そもそも、好き、嫌いは人それぞれです。だからこそ、たくさんの作品の中から、本当に好きになれる作品と出会うということは、それこそ人生の伴侶を見出すことと同様に難しく、その一方でまた心の底から嬉しいものでもあります。

 前置きが何だかやけに青臭くなってしまいましたが――

 豊田徹也さんの作品に出会ったときのことは今でもよく覚えています。2008年の梅雨のときでした。仕事で終電がなくなり、次の日も朝早くから会議が入っていたので、仕方なしに会社近くの漫画喫茶に泊まることになったのです。しかし運悪く、ひどくごつごつとしたリクライニングチェアで寝つけず、仕方なしに雑誌『アフタヌーン』を「ヴィンランド・サガ」や「無限の住人」目当てでぱらぱらとめくっていたら、「カプチーノ・キッド」(後に『珈琲時間』に所収)という短編に出会いました。

 わたしが大学生の頃はポール・スミスの火つけもあって、モッズのリバイバルブームがありましたから、ポール・ウェラーが使っていたペンネーム(=カプチーノ・キッド」)をタイトルに付していることにまずピンときました。そして、まるでシネフィルが好む単館作品のような穏やかでシンプルなストーリーにすぐ心奪われました。わたしが豊田徹也さんのファンになるのには、その作品だけで十分でした。

 それから、このあまりにも寡作な作家さんを追いかけて、早四年――

 帯には「在庫一掃大放出!」と不穏なことが記されていますが、ずっと読みたいと思っていた四季大賞受賞のデビュー作「ゴーグル」から、2012年初出の新作短編二編までも含む雑多な六作品がこの短編集には収められています。

 あとがきにもある通り、基本的なテーマは「家族の問題のようなこと」。実際に、母子家庭で育った女性がマリッジブルーになり、昔隣に住んでよくしてもらっていた老人を探偵を使って探し求めるという「ミスター・ボージャングル」、母親のDVを契機にコミュ障となった少女がとあるプー太郎のもとにやってくる「ゴーグル」、その前日譚に当たる少女と祖父との日常の一幕を描く「海を見に行く」、それとさながら『美味しんぼ』のように食によって家族や知り合いが邂逅する「とんかつ」といったふうに、文字通り変化球どたばたコメディとなった「スライダー」や、ショートショートの「古書月の屋買取行」以外は全て家族が中心的に描かれています。

 今巻での一番の注目は、四季大賞受賞作かつデビュー作でありながら、約十年もの間、日の目を見ることのなかった「ゴーグル」であり、おそらくファンもそれを目当てに購入しているはずですが(わたしもそうでした)、実際にお気に入りとなったのはむしろ、ソニー・スティットの「ミスター・ボージャングルス」(※もともとはジェリー・ジェフ・ウォーカーというカントリーシンガーのマイナーヒット曲を、日本でもお馴染みのカントリーバンド、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドが戦後に大ヒットさせたもの)の歌詞をベースにしている、タイトルもそのまま、「ミスター・ボージャングル」でしょうか(初出は雑誌『アフタヌーン 2011年4月号』)。

 そもそも「カプチーノ・キッド」との出会いも含めて、「ミスター・ボージャングル」にも出てくる私立探偵・山崎にわたしは惹かれているのかもしれません(一番好きだったのはあの映画監督だけど)。それにラスト前の四ページ。何も台詞がないのが本当にいい。きっとこれが映画になったら、前述の曲が流れているところかもしれません。何というか、本当にカンヌ国際映画祭に出展されそうな作品と言っていいでしょう。

 最後に、漫画でも、ライトノベルでも、キャラクターというのはある程度、誇張されて造形されるものではありますが、豊田徹也さんの描くキャラクターにはそんな脚色が一切ありません。とはいえ、多くの読者は日常に何かしらの問題を抱えていて、作品の中にある種のカタルシスを求めて手を伸ばそうとします。もちろん、個人の問題なんて、簡単に解決できるものではありません。また、漫画の読み切りの程度の分量で、キャラクターが直面する問題が全てが上手くいくわけでもありません。それでも、人も、キャラクターも、前に向かって進みたいと願う――豊田徹也さんの作品には、ありきたりな涙も、笑みの演出さえもないけれど、読者の心を揺さぶるシーンがいくつも詰っています。稀有な、不思議な作家さんだと思います。

 少しビターなコーヒーと共に、たまにはカントリーソングなんかを聞きながら、ぜひともお勧めしたい作品です。



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